土の中にいる菌がつくる ヒトの薬

土の中の菌がつくる薬

結核を治す薬として注目を浴びた放線菌

ヒトの薬を土の中の菌がつくっていると聞いたら、信じられますか?
あまり知られていないかもしれませんですが、伝染病や感染症に効く抗生物質の多くは、土の中の放線菌がつくり出す化学物質からできています。

ヒトの薬を最初に土壌から見つけ出すことに成功したのは、ウクライナで生まれたセルマン・ワクスマンという人物だと言われています。ワクスマン氏と門下の学生は、1943年、土壌にいるストレプトミケス・グリセウスという放線菌が生産するステレプトマイシンという化学物質を見つけ出しました。ステレプトマイシン。結核を制圧できる薬です。

以後、製薬会社によって臨床試験が実施され、1947年にはストレプとマイシンは月に1000kgも生産されるほど世の中に拡がっていきました。

土臭い匂いをつくる放線菌は 抗生物質の宝庫

ワクスマン氏は、土壌微生物学が扱う土壌中の多様性に魅せられた学者だったそうです。

医学を目指そうと渡米したにも関わらず、土壌と堆肥が土壌肥沃度を高める理由に好奇心を掻き立てられて農学を専攻。
戦後は、きれいな設備の整った製薬会社の仕事を辞めて、ボロボロな環境とはいえ自分の好きな研究ができる大学の助教授の職に就き、土壌微生物額の教科書を作り出したのだとか。

ワクスマン氏が特に魅了された放線菌は、土壌の土臭い匂いをつくっている菌のグループです。土臭い匂いに正式な定義は設けられていないそうですが、この匂いの元となるものは、放線菌が土壌の有機物を一時分解する過程で出る代謝物だと言われています。

放線菌は、土臭い匂いをつくる過程で、さまざまな化学物質を生産します。その生産物質はヒトが病原体と戦う際に効果的なものが多いそうで、現代では、抗生物質の7割〜8割が放線菌からつくられたものです。