畜産業に利用される抗生物質と菌の話

畜産で利用される抗生物質と菌

畜産業で抗菌剤が過剰使用されてきた問題

抗生物質と、抗生物質に類似した働きをする人工合成物質と、を併せて、抗菌物質や抗菌剤と呼ばれています(医科、抗菌剤)。抗菌剤は20世紀の途中から畜産業で大量に使用されてきました。その弊害が、いろいろと懸念されており、さまざまな規制が制定されています。

一番よく聞く抗菌剤の弊害は、『薬剤耐性』 かと思います。
薬剤耐性とは抗菌剤に対する細菌の耐性のことで、抗菌剤で狙い通りに細菌を殺すことができなくなるばかりか耐性をもった細菌ばかりが生き残り増えてしまい、病気の動物を治せないという問題が発生します。さらには、動物の体内にいる食中毒を引き起こす細菌までもが耐性を獲得してヒトの体内に入ってきてしまうという事態も発生します。耐性を持った細菌が原因の食中毒は治療が難しくなってしまうというリスクがあり、危険です。
薬剤耐性への懸念として、日本では1960年代から家畜に抗菌剤を使用する際の獣医師の指示を義務付けるなどの規制をしてきているほか、1980年台からは抗菌剤が残留した食物が人間の食卓に並ぶことを防ぐために抗菌剤ごとに対象動物・使用料・使用時期等の基準を設定してきました。
EUではより規制が厳しく、EUの規制措置は日本を含めて世界的に大きく影響しています。

抗菌剤の過剰投与に関する弊害が指摘されながらも、抗菌剤使用が無くならない背景には、畜産業者にとっての抗菌剤のメリットの大きさがあるようです。
抗菌剤を使用すれば掃除や世話を省きながら病気にならない家畜を生産できること、そして、抗菌剤を使用すればより少ない飼料で家畜を太らせるうことができること、が主なメリットです。
後者の、病気治療が目的なのではなく飼料に対する成長度合いを促進させることを目的として家畜に与える抗菌剤は、抗菌性成長促進剤(Antibiotic growth promoter : AGP)または抗菌性飼料添加物と呼ばれています。