菌を活用した古くて新しい治療

糞便移植

健康なヒトの腸内微生物をまるっと移植する

糞便移植(別名:腸内細菌叢移植)への注目が高まっているそうです。
方法は、まず患者さんに大量の抗生物質を投与して、その後、腸内の菌の状態を回復させるために健康なヒトの糞便と糞便微生物(菌)を移植するというもの。最初に抗生物質を大量に投与するのは、できるだけ無菌状態にすることで、その後移植する健康なヒトの糞便微生物(菌)の状態を、患者さんの腸内でもできるだけ正確に再現できるようにするためだと考えられます。

近年の感染症の中には、どんな抗菌薬も効かない薬剤耐性を持った病原菌に由来するものがいくつか確認されています。例えば、再発性クロストリジウム・ディフィシル感染症や、クローン病や潰瘍性大腸炎などの難治性炎症性腸疾患などです。その治療に、糞便移植がものすごい確率で効果を発揮しているといわれます。(参考:「糞便移植法の現状と将来展望」)

糞便移植は4世紀の手引き書にも載ってる?!

近現代の医学でいえば、腸内微生物や身体に棲む微生物の重要性に関するマイクロバイオータ(このサイトでは菌と呼んでしまっています)に絡んだ治療法・健康法は、新しい化学分野といえます。

しかし、糞便の効果自体は古くから注目されていたようです。
例えば、4世紀の中国で使用されていた「肘後備急方」という救急処置の手引き書には、食中毒やひどい下痢を起こした患者には健康なヒトの糞便を飲料にして与えるという治療法が記載されているとのこと。その1200年後の中医学手引き書にも同じような内容は書かれていて、そこでは、糞便飲料を”黄色い汁”と表現しているそうです。(参考:アランナ・コリン著「あなたの体は9割が細菌」)

人工的につくる薬よりも効く 健康なヒトの菌

どうして糞便移植がそれほど効果があるのか、詳細なメカニズムはまだ研究段階だともいわれているようです。
つまり、ある種の菌が健康改善にとてつもなく効果を発揮することは研究結果からわかってきているものの、必要な菌はどれなのかを正確には突き止められていないということ。そして、その菌に確実に晒されるようにし、しかもその状態を維持するということは、現状では、まだできないのだとか。

それゆえに、健康なヒトの持っている腸内細菌叢をまるっと移植することで、全てを回復させて腸や免疫システムを再起動させるわけです。

糞便移植は、健康なヒトの腸内微生物にはまだまだ解明されていない健康の秘密がたっぷりと詰まっていることを指し示す治療方法だともいえそうです。