菌は抗生物質にやられてばかりではない
抗生物質は、20世紀中頃に普及してからたくさんのヒトの命を救ってきました。しかし、病原菌の方も、ただやられてばかりではいなかったようです。
病原菌は、あの手この手を使って抗生物質に対抗して生き残ってきました。
例えば、『外膜を変化させて抗生物質が入ってきづらくする』『抗生物質の成分を自分の中から外へ排出する』『DNAやRNAを変化させて効かなくする』『抗生物質の成分を分解する』『バイオフィルムをつくって抗生物質から身を守る』といったように。
つまり、被って身を守ったり、変装して逃げ切ったり、戦って勝ったりしているようです。
耐性菌の発生を促進してしまう習慣
『処方された抗生物質の不適切な服用』『抗生物質の過剰処方』『家畜への抗生物質の過剰処方』『農薬の過剰散布』こうしたことが、耐性菌の発生を促進させてしまう原因だと言われています。
抗生物質の不適切な服用・過剰処方はわかりやすいですが、家畜や農薬については少しわかりにくいかもしれません。
そこには、畜産業や農業の効率を高めるために過剰に投与された抗生物質が、家畜の体内や土壌中で耐性菌をつくり出し、
→ヒトと動物・植物に共通して感染する病原菌の中から耐性菌が増えたら、
→お肉や野菜を食べたヒトの体内にもその耐性菌が入ってしまう、
という連鎖があります。
ヒトの体の中には、たくさんの種類の菌がいます。たくさんの菌が、それぞれにバランスを保ちながら体内で領土をつくって生息し、ヒトの体を維持させてくれています。そうした菌の集合体をマイクロバイオームと呼ぶそうです。
抗生物質には、病原菌をやっつけてくれる側面とともに、バランスの取れたマイクロバイオームを撹乱させてしまう側面もあるといわれています。病原菌だけではなく、ヒトの体の維持に必要だった菌たちまで殺してしまうのです。
そして、そうしてバランスが崩れた体内で幅を利かせるのが、抗生物質への耐性を持った耐性菌なのだとか。他の菌がいなくなったから、あっちにもこっちにも自分の領土をつくってしまいいます。
耐性菌とヒトとの攻防
ワクスマン氏と門下生が見つけた奇跡の薬・ストレプトマイシンは、多くの結核患者の命を救いました。しかし、1940年代の終わりには、すでに、一部の患者に効かなくなっていたそうです。
ストレプトマイシンに関する論文が発表されたのが1944年、製薬会社の臨床試験が完了したのた1946年末、そこから普及した薬が、1940年代の終わりには一部の患者に対して効かなくなる。
菌が耐性を持ちヒトに脅威を与えるスピードは、本当に凄まじいのだと痛感 します。
菌の分裂速度は、例えば大腸菌なら体温程度で平均して20分といわれています。このサイクルで薬剤耐性を持つ菌だけが生き残り増殖していく。
こうして、いま、私たちは、毎年新たな抗生物質を開発し、毎年新たな病原体に押し戻しされるというサイクルにいるわけです。